ナガオカケンメイ「ロングライフデザインは転換せざるをえない」。民藝や伝統工芸が“雑貨化”する危機感【インタビュー】

ナガオカケンメイさん

ナガオカケンメイさん

日本の伝統工芸や民藝が見直され、ファッションに取り入れられるなど、広く親しまれるようになってきた。その土地と暮らしのなかで長く愛される「ロングライフデザイン」は今、ますます注目されている。

そのロングライフデザインの提唱者であるナガオカケンメイさんは、全国各地の魅力をデザインの目線で掘り起こし、世間に広めてきたパイオニアだ。各地に実店舗「D&DEPARTMENT」を展開し、デザイントラベルガイド『d design travel』を立ち上げて情報を発信するなど、その仕組みづくりを行ってきた。

しかし、ナガオカさんは長らく掲げてきたそのビジョンを、「転換せざるをえない」と話す。時代の肌感を敏感に読み解き、デザインの力で社会の課題に立ち向かってきたナガオカさんが今、感じている危機感について聞いた。

漆の産地で偽物が売られている日本

――なぜ今、転換が必要なのでしょうか。

「飽和状態」だからです。「D&DEPARTMENT」は、デザインとリサイクルを融合させたお店としてスタートしました。その後、その土地で長く続いている工芸品や食品、産物を紹介して、販売する場所として進化してきましたが、今はそういうお店がいっぱいできて、当たり前になってきています。日本のもの作りの良さが広まり、どの家庭にも割といいものが行き渡るようになりました。加えて、今は「物欲のない時代」と言われ、ものを買わない、持たない若者も増えています。こうした時代の流れから、僕らの役目は終わったのではないかとも思いました。

D&DEPARTMENT TOKYO 1号店

D&DEPARTMENT TOKYO 1号店

しかし一方で、伝統工芸品を”雑貨化”してしまっている人たちが現れています。伝統工芸”風”や、老舗”風”に見せた、安価なものを作り出す人たちが出てくるという、ナンセンスなことがどんどん起こり始めていて、良くないな、と。

例えば漆の産地にある専門店ですら、およそ2万円の本物より、4200円の似たようなものを売ると、後者の方が売れるからと、他の産地から取り寄せて、売っちゃっているんですよ。中国産の漆器なんかも、当たり前のように一緒に売られていますからね。許されないことです。本当に、びっくりしますよ。漆の世界ひとつとっても……。

それで、これからは今よりさらに踏み込んで、日本の伝統工芸の継承を意識しながら「D&DEPARTMENT」でしか買えないオリジナルなものを提供していかなければいけない。そう思うようになりました。

共通テーマは“伝統技術の継承”

――昨年から、オリジナル商品の開発を始めたそうですね。

はい、きっかけは、角萬漆器さんと皆川明さんとの出会いでした。

ナガオカさん(左)と皆川さん(右)

ナガオカさん(左)と皆川さん(右)

「D&DEPARTMENT」沖縄店のプロデューサーであり、Luftデザイナーの真喜志奈美さんから、沖縄で最も古い琉球漆器の伝統を守っている、角萬漆器さんという人たちの展覧会をやりたい、という話がありました。120年以上続いている技巧を受け継いでいるそうです。産地に根付いたもの作りをしている人たちを応援したいと思っていたので、角萬漆器さんの工房に行ってみました。でも、ちょっとデザインが古すぎて……そのままでは売れない、デザインを若返らせたいと思ったんです。

そこで思い出したのが、皆川明さんのことでした。オリジナルブランド「minä perhonen」で世界的にもファンが多い方ですが、金沢21世紀美術館で開催された「生活工芸」展でお会いしたときに、産地を若返らせて、伝統工芸の技術を継承するシステムを作れないか、という話をされていたんですね。皆川さんのアイデアや姿勢にすごく感動したし、一緒に何かやりたいなと思って。それで皆川さんにも沖縄まで来てもらって、琉球漆器をみてもらったら、その場ですぐに(オリジナル商品の)スケッチが始まりました。

オリジナル商品
オリジナル商品
オリジナル商品

皆川さんも僕も一番関心があるのは、「技術の継承」でした。伝統工芸って、少しでも形が違うとダメだという人もいますが、形はその時代のデザインというものがあるので変わっていって当然で、江戸時代でも、安土桃山時代でも、そうして変化しながら続いてきたと思うんですよね。でも、技術は途切れちゃいけない。使い続けないと、技術は衰退してしまいます。「技術さえ継承できれば、どんなに新しいことをやってもいいんじゃないか」というのが、我々の共通の考え方でした。

だから「minä perhonen x 角萬漆器 x D&DEPARTMENT OKINAWA共同開発プロジェクト」の商品開発では、形は自由に作りながらも、堆錦(ついきん)や螺鈿(らでん)の 絵付けとか、難しい伝統の技術を使っているんです。その代わり、値段がちょっと高くなっちゃっているんですけど、やはりそれだけの価値があると思っています。

初めてオリジナル商品を開発した事情

――ご自身たちでは作らずに、眠っているよいものを紹介する、というのが、これまでのコンセプトでしたよね。

販売する商品やコラボレーションする商品は、必ず生産者を訪問する。

販売する商品やコラボレーションする商品は、必ず生産者を訪問する。

はい、正直言って、この2~3年、もの作りを始めるなんて、自分たちでも思ってもいなかったんですよ。発表したときは、社内がざわつきましたね。「あんなに作らないって言っていたのに」って(笑)。ただ、「本物を買いたい。多少お金を払ってでも手に入れたい」という覚悟なのに、「本物にたどり着けない」という人が今、すごくたくさんいるんで。

例えばプラスチックに、ウレタン塗装の中に漆の成分を混ぜた化学染料をふきつけて、ある程度、漆の成分が入っていたら「合成漆器」と呼んでいる。それが「やっぱり日本人は漆がいいよね」といって売られている。見てもわからないんですよ。わからないからいいや、っていう話になってしまっています。

ナガオカケンメイさん

僕らの「D&DEPARTMENT」では、「目をつぶってでも手に取ったものが本物」です。絶対に本物を買いたいと思ったら、ウチに来たら絶対買えます。そういうお店が、もっと増えていかないと。ちゃんと伝えていくことは、作り手のためになるし、技術の継承、それから産地の発展につながっていきます。

自分だけよければいい、自分の焼き物さえ売れればいい、といった、産地の発展と結びついていない作り手の意識も見直してほしいですね。確かに、話題の作家さんの作品をひっぱってさえくれば、お店って作れちゃいます。でも、ウチでは産地の発展に結びついている人たちだけを取り上げて、応援します。だから絶対、現地まで行きますよ。1日〜2日つきあってもらうと、嘘なんてすぐわかるじゃないですか。実はちゃんとやっていないんだなとか、その土地とその人たちの関係とか。


産地と密に連携しながら、新しいビジネスモデルを構築

――これからの「ロングライフデザイン」のために、他にどんな展開を予定していますか。

ひとつ新たに始めているのが、フリーペーパー「d news」の制作です。トラベルガイドの『d design travel』の方は、およそ2カ月かけて濃密な取材をしてたくさん現地の人に出会って、一冊作るのに、終わると次の土地にいかなければいけない。そこで「d news」は『d design travel』の別冊のような位置付けで、47都道府県と継続的につながって、情報を網羅していきたいと思います。

d news

d news

もう一つ考えているのは、商品の「貸し出し」です。要は、その作り手のファンになって、彼らが作るものを所有したいという気持ちが芽生えればいいと思うんですね。そこが店にとっての到達地です。そこにたどり着くためには、買うという行為の手前に、もうちょっと助走が必要だと思っていて。その助走の部分を一つのビジネスにしていけないかと思っています。例えば800万円の車を買うのに、2時間くらいの試乗で決めるなんて、無理じゃないですか。だから高級車のレンタカーサービスなんかが始まっています。場所だってシェアする時代ですから、ものだってシェアする時代です。

厳密に言うと、暮らしのものは季節感も大切なので、季節ごとに借り受けるイメージですかね。ただ、「借りる」という言葉はまだ少しイメージが悪いので、別の言い方や見せ方を考えたいと思っています。まだ何も勝算もないし、新しいことを始めるのはお金もかかりますが、時代はそういうふうになっていくと思います。

(インタビュー・文:山岸早瀬)

ナガオカケンメイ

デザイン活動家・京都造形芸術大学教授・武蔵野美術大学客員教授

すでに世の中に生まれたロングライフデザインから、これからのデザインの在り方を探る活動のベースとして、47の都道府県にデザインの道の駅「D&DEPARTMENT」を作り、地域と対話し、「らしさ」の整理、提案、運用をおこなっている。'09年より旅行文化誌『d design travel』を刊行。'12年より東京渋谷ヒカリエ8/にて47都道府県の「らしさ」を常設展示する、日本初の地域デザインミュージアム「d47 MUSEUM」を発案、運営。'13年毎日デザイン賞受賞。

公式サイト

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