ポルノグラフィティ新藤晴一の小説『ルールズ』インタビュー。「歌詞や小説を、書くことが支え」

ポルノグラフィティ新藤晴一さん

新藤晴一さん

ロックのルールは、自由であること。ただ一つ情熱さえあれば、何者にも縛られることなく、己の無理さえもまかり通る――。ポルノグラフィティのギタリストとして多くのヒット曲を手掛ける新藤晴一が、長編小説第二作目『ルールズ』で描いたのは、ロックをロックたらしめていた時代に憧れを抱きながら、現実社会のルールと向き合う主人公たち。高飛車なプロモーター、中国の謎の村、夜の闇社会……さまざまなものに翻弄されながら、主人公=健太たちは果たしてデビューを掴むことが出来るのか? 

新藤さんが読書に明け暮れた地元時代を振り返りながら、なぜ本書を書いたのか、その理由に迫った。

本の向こうに広がる世界に救われた幼少時代

――バンドのサクセスストーリーものかと思いきや、まさか中国まで話が及ぶとは奇想天外でした。物語のキーマンである中国人ギタリストのハオランは、どんなところから生まれたキャラクターですか?

中国は何をするにもスケールが大きくて、たとえばオリンピック選手を育てるために、すごく小さいときから英才教育をしますよね。そういう日本人の感覚からすると想像が及ばないところに、ある種のファンタジーを感じていたんです。そんな国で英才教育を受けたギタリストがいて、音楽を楽しむという感覚がまったくなく、ただ技術としてギターのスキルを身につけた人物が、もし日本のロックバンドに入ったらどうなるんだろう? と。それが、物語の着想の一つになりました。

――新藤さんご自身もギタリストでバンドマンでもあって、だからこそのリアリティも感じましたが、バンドをモチーフにすることに思うところはありましたか?

自分の歩んで来た道を賛辞していると思われるのは嫌だったので、最初は躊躇しました。でもマガジンハウスの編集長や担当編集者の方からの提案で、僕が書くことで読み手が納得してくれるものは、やはりバンドをテーマにしたものであろう、と。ちょうどハオランというキャラクターのアイデアもあったし、バンドをテーマにしながら、でも決してノンフィクションにならないファンタジーが描けるんじゃないかと思って。

――なぜファンタジーが良かったのですか?

そもそも僕は、フィクションで現実味のないものを書きたいと思っていて。こんなにも生々しい世界にいるのに、読み物でも生々しいものを書いてどうするんだ?という気持ちが根底にあって。自分の初期衝動としては、(出身地である)因島という小さな島での閉塞感のなかで、すがるように手に取ったいくつもの本の向こうにすごく広い未知の世界が広がっていて、そこに救われていた部分がありました。だから、読んでくださるみなさんにも、そういうものを感じて欲しいと思って。

――本作にはオーバジンズという架空のバンドが登場しますが、音が表現出来ないのは、ミュージシャンとしてはもどかしさもありませんでしたか?

むしろ表現出来なくて良かったと思っています。実際に音を作って、読者のみなさんの中で鳴っていた音と違っても困るし(笑)。それは歌詞もそうで、たとえばバンドものの有名な漫画『BECK』でも、いちばん盛り上がるライブのシーンは擬音も歌詞も何もなくて無音で描かれているんですね。音楽を題材にした作品は、そういうものが実際に多くて、僕もそういうほうが良いと思います。

歌詞と違って情景を具体的に描かないと想像してもらえない

――新藤さんは、ポルノグラフィティでは「アポロ」や「サウダージ」「メリッサ」などの代表曲を作詞されていますが、小説と歌詞ではどんなところが違いますか?

似ているところがない訳ではないけど、基本的にまったく別という感覚です。舞台に例えると、セットや衣装がすでに作られていて配役も決まった状態で、その舞台にもっとも相応しいセリフを書くのが作詞です。小説は、セットや衣装などまったく何もないところから自分で作って、セリフに説得力や必然性を持たせないといけない。音楽なら「愛してる」と歌っても、メロディやアレンジによってお膳立てが出来ているからグッとくるわけで。でも小説は、その「愛してる」をグッとこさせるための前置きやお膳立てを、文章でしないといけない。

――細かい場面や状況の説明……つまり情景描写が必要になってくるわけですね。

はい。そのために担当編集者の方からは、たくさんアドバイスをいただきました。例えばリハーサルスタジオでメンバー同士が話しているシーンで、メンバーとの会話中にハオランが立ち上がるのですが、「いつ座ったんですか?」と聞かれて。僕は、誰かが言ったことに対してハオランが思わず立ち上がった様子を描写したかったんだけど、「座ってなかったのに立ち上がるのはおかしい」と。描写はそれくらい気を使わないといけないんだと、勉強させていただきました。

――歌詞なら、その細かい描写の部分を聴き手の想像に委ねますからね。

そう。音楽なら「あなた」と書いても、「あなたって誰?」とはならない。でも小説で「あなた」と書いたら、「誰?」ってなるわけですよ。

「そこまで決めないとだめなの?」と驚いたのは……健太たちがハオランのお母さんと会うシーンで、健太たちとお母さんがどのくらい(距離が)離れていたかです。「だいたいこのくらいじゃないですかね?」と手を広げて見せたりしたんですけど、明確にしたほうが良いと実際にメジャーで測ったりしました。でも、距離感を含めた情景を具体的に想像してもらえないと、そのシーンの説得力がなくなってしまうんですね。アドバイスを聞いて、なるほどな〜と思いました。

ペン先が書かせてくれるみたいな感覚

――小説家を目指した経緯などのお話をうかがいたいのですが、昔から小説を書きたいと?

そうですね。本を読むのが好きな方は、だいたい一度は考えるんじゃないでしょうか。僕自身学生時代は、本が見せてくれた光景に助けられた部分がたくさんあって。小さい田舎の島でしたし、嫌な友だちや嫌な先輩、田舎の閉塞感がある中で、小説が見せてくれた世界は自分の中で大きかった。だからこそ、いつか自分で作る側になってみたいとずっと思っていました。

――バンドをやっていなかったら、真っ先に小説家を目指していた?

どうでしょうね(笑)。でも、物語を書くのは好きでした。小学4年生のときに、「瀬戸内集会」と言うクラスごとに劇をやって見せ合う発表会があって。他のクラスは、ありものの台本を選んでやっていたんですけど、僕は自分で書きたいと申し出て、物語もオリジナルで脚本を書かせてもらったことがありました。音楽の授業で「コンドルは飛んでいく」を初めて聴いて、すごくストーリーが浮かんでいたので、それを広げて書いたんです。劇の時間としては20分くらいの短いものだったと思うけど、脚本で文字にするとけっこうな分量があったと思います。

――影響を受けた作家や、思い出深い読書体験は?

僕の読書体験は、小学生のときの学級文庫や図書館で読んだ、徳川家康や曽我兄弟などの伝記に始まります。意識して買って読むようになったのは、中学に上がったばかりのころで、赤川次郎さんの作品からでした。面白いし読みやすかったし。赤川さん作品を全部読んでやろうと思って、多いときは週2冊くらいのペースで読んでいたんですけど、赤川さんの出版ペースがそれを上回って。何冊読んでも、新刊がどんどん増えて行くという(笑)。あと、これはもう隠せないですけど、田舎の中学生だった僕には村上春樹さんが大きかったし。他にもいろいろ読みましたけど、特に印象深いのは、そのお2人ですね。読むのも好きだったけど、とにかく文字を書くことも大好きで、新聞記者とか文字を書く職業になれたらと思ったこともありました。

――文字なら何でも良かったんですか?

昭和の文豪みたいなことを言いますけど、ペン先が書かせてくれるみたいな感覚があって。ペン先が紙に触れている部分で考えているような感じなので、とにかく何でも良いから書くことが大事で、歌詞が浮かばない時は、缶コーヒーの成分表を書き写したりしているうちに言葉が浮かんで来ることもあって。

――書くときの紙やペンにこだわりを持っている方も多いですが、新藤さんも決まった紙やペンはありますか?

僕は、スタジオに置いてある白紙のレポート用紙です。歌詞を書き始めた頃はFAXで送っていたので、ちょうど送りやすいサイズだったのもあって、その名残りで未だに作詞のときはそれを使っていて。さすがに小説はパソコンで書きましたけど、ノートタイプの原稿用紙もあって、あれはすごく書いてる気分になりますね(笑)。

ペンは、昔はどこどこの万年筆が良い、とこだわっていましたけど……今使っているのはマルチペン。ただ、グリップがオールドのウィスキーの樽材で出来ているんです。すごく手に馴染むし、書き心地が良くて気に入っています。

「ピュアモルト ジェットストリーム インサイド4&1 “oak wood premium edition(オークウッド プレミアム エディション)”」。色合いから新藤さんの愛用ぶりが伺える

「ピュアモルト ジェットストリーム インサイド4&1 “oak wood premium edition(オークウッド プレミアム エディション)”」。色合いから新藤さんの愛用ぶりが伺える。

取材時も持ち歩いていたロールペンケース(ITLIAN VEGETABLE TANNED LEATHER / MINERVA BOXシリーズ)は、使い込んで革が味わい深くなっていた。

毎日必ず進めることが、小説を書くルール

――『ルールズ』というタイトルに引っかけて、新藤さんが小説を書く上でルールとしていることは?

コツコツ書くこと。毎日必ず進めることです。小説はそれが命だと言うか……。何日かに1度たくさん書くよりも、毎日必ず2000文字とか決めて書いて行くことで、物語が進んで行く気がします。特に今作は月1回の連載で毎話1万3000字くらいのボリュームだったので、本当にコツコツ進めないと話がなかなか進まないところがあって。土日以外は毎日書くことをルールにしていました。マラソンランナーが、一歩を踏み出さないとゴールに近づかないみたいな。

――きっと浮かばなかったときもありましたよね?

浮かばないときでもとにかく書いて、翌日消して新たに書き直しました。これは小説に限らず曲でも歌詞でもそうで、間を開けると机に向かうのにおっくうになってしまうんですけど、座って書いていれば何かは出て来るものなんです。

――長編小説の2作目となりましたが、『ルールズ』は自分のなかではどんな作品になったと思いますか?

バンドは、もしかしたらいつかやり切ったと思う日が来るかもしれないけど、そうなったときに文章が書ける自分がいることは、すごく支えになると思っています。1〜2作で傑作が書けるとは思ってないけど、もしかすると20作くらい書いていれば、1回くらいラッキーパンチが当たるんじゃないかと思うし(笑)。それが20作目に来るとしたら、それまでに19作書かないといけないわけで、そのための2作目というものには、しっかりなったんじゃないかなと思います。いろいろな方の力を借りながら、今書けるベストのものは書けた。ここから、また次の一歩に向かえる。そういう作品になったと思います。

(インタビュー・文:榑林史章)

新藤晴一(しんどう・はるいち)

1974年広島県因島出身。ポルノグラフィティのギタリスト。1999年に『アポロ』でメジャーデビュー。「ミュージック・アワー」「サウダージ」「アゲハ蝶」「愛が呼ぶほうへ」「ハネウマライダー」「オー!リバル」など、数々のヒット曲の作詞も手がけ、現在に至るまで日本の音楽シーンを盛り上げている。2017年には初の台湾ワンマンLIVEを行った他、夏には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017」や「SWEET LOVE SHOWER 2017」など大型野外フェスに立て続けに出演。10月25日には11枚目となるアルバム「BUTTERFLY EFFECT」をリリースした。11月からは約5ヶ月にわたるホールツアーを全国32箇所39公演で開催。
ポルノグラフィティとしての活動のほか、湘南乃風SHOCK EYE、音楽プロデューサーの篤志と共に「THE 野党」としても活動、また他のミュージシャンへの詞の提供や執筆活動も積極的に行う。著書にエッセイ集『自宅にて』(ソニーマガジンズ)、小説『時の尾』(幻冬舎)がある。

公式サイト
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アーティスト情報

新藤晴一

生年月日1974年9月20日(44歳)
星座おとめ座
出生地広島県因島市

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