『うらみちお兄さん』漫画家・久世岳インタビュー。“哀しみの人生賛歌”に30代から共感の嵐!【単行本1巻発売記念】

「いいかな?よい子のみんな。人生なんて人それぞれなんだから、毎晩特に面白くもない深夜ドラマ観ながら安いカップ酒あおってる独り身のお兄さんを不幸せだと思い込まないほうがいいよ――」。教育番組「ママンとトゥギャザー」の体操のお兄さん・表田裏道(31)。 爽やかだけど情緒不安定な『うらみちお兄さん』から漏れ出る大人の闇に、今日もよい子のみんなはドン引き!

Twitterなどネットを中心に話題騒然となり、9月末に発売された単行本も、今なお版を重ねている。前代未聞のアンチヒーローが放つ哀しみの人生賛歌に、大人になった“よい子"たちがハマる理由とは。TSUTAYAスタッフが、作品の魅力、裏側を原作者の久世岳先生に聞いた。

Twitterでのつぶやきが、漫画を180度変えた

SHIBUYA TSUTAYAスタッフ 中島美都氏(以下、中島):2017年は「第3回 次にくるマンガ大賞」“Webマンガ部門"、「WEBマンガ総選挙」“インディーズ部門"ともに1位に選ばれ、コミックスもすごい反響ですね。私自身も、今年2月に連載のきっかけとなったTwitterでの盛り上がりを拝見して以来のファンでして、ぜひ作品が生まれた背景をお聞きしたいです。

久世岳先生(以下、久世):はじめは、「comic POOL」(一迅社とpixivの共同制作による電子書籍サービス)での連載漫画について担当編集者の藤原さんと『うらみちお兄さん』ではない作品でやりとりしていたんです。ネームも完成していて、あとはいつ始めるかという状況で、なんとなく息抜きでTwitterに『うらみちお兄さん』を投稿したら、思いのほか反響をいただけて。タイミング的にもこちらを連載したほうがいいんじゃないかと藤原さんに相談して、トントン拍子で連載へと進みました。

『うらみちお兄さん』(久世岳 著、一迅社 刊)
ブックデザインも秀逸で、表紙はホロとマットの二重加工の豪華仕様! ぜひコレクションしたい。あえて汚し風デザインのページがあるのも遊びのうち。実際には汚れていないのでご安心を。

(ここで一迅社の担当編集者・藤原さんが登場)

藤原遼太郎さん(以下、藤原):もともとはダークファンタジーの作品を進めていて、『うらみち』とは全然違うものだったんですよ。

久世:どシリアスで、笑うところが1ミリもない感じの。

藤原:久世さんから、『うらみち』をやりたいという(思いが綴られた)メールをいただいて。僕もやりましょうって、即日返事をしました。

ストレス社会を生きる「うらみちお兄さん」31歳

中島:『うらみちお兄さん』は、ネタのブラックさと絵の綺麗さの相乗効果が面白いですよね。「うらみちお兄さん」こと表田裏道は、どのようにして生まれたキャラクターなんですか?

ツッコミ役はよい子のみんな。

ツッコミ役はよい子のみんな。

第1話を試し読みする

久世:とにかく、悪い顔のイケメンっていうのを描きたかったんです。爽やかな笑顔とか、気障な口説き文句とか、そういうのが映える主人公ではなくて、悪い顔で黒いことを言って映える主人公っていうのが個人的に好きなので。「うらみちお兄さん」というキャラありきで、世界観や設定は後からついてきた。だから、キャラクターには作中で勝手に動いてもらおうっていう感じです。

中島:だからキャラクターが生きているんですね。裏道は、黒い面はありつつも意外に素直ですよね。体操のお兄さんとしての仕事はちゃんとこなしているし。

久世:そうなんです。根は良い人。ただちょっと情緒が不安定で、正直すぎるところがある(笑)。

中島:すごく現代人っぽい(笑)。裏道は体大のエリートだったそうですが、今後、情緒不安定になったきっかけとかは描かれていくのでしょうか?

久世:おいおい描くかもしれないですが、彼に関しては、大きな出来事があって極端に変わってしまったっていうことはなくて、たぶん日々のストレスの積み重ねが30歳になってピークに達しているって感じかなと思いますね。

中島:リアル!

久世:もうメンタルが限界に達してきている頃だと思うんです。

決して、就職に失敗したとか、人間関係に問題があるっていうわけではないけど、何かをこじらせている。堕落した人生じゃないからこそ、そんな中でこんな性格になってしまっているっていうのが面白いなと。

大人には理不尽な現実を受け入れなければならないときもある。

大人には理不尽な現実を受け入れなければならないときもある。

藤原:いまは夢を見る時代でもない、かと言って現実ばっかり見ていると疲れちゃうからたまには夢を見たい。そのバランスをみんな欲しがっているんじゃないかなと勝手に思っています。『うらみち』って、その共感ポイントがちょうどいいんですよね。

キャラクターが自由に生きていく。Web発ならではの新感覚

中島:裏道以外のキャラクターも魅力的ですよね。空気の読めない残念な歌のお兄さん「いけてるお兄さん」(27)や、運とタイミングの悪い歌のお姉さん「うたのお姉さん」(32)、裏道のストレスのはけ口(?)の後輩「ウサオ」(28)に「クマオ」(28)。誰かしらに共感してしまいます。

カットになった瞬間に死ぬ表情筋。

カットになった瞬間に死ぬ表情筋。

久世:『うらみちお兄さん』では、私だと考え得ないところまでキャラが独り歩きしている感じがします。こんな経験は初めてで、すごく興味深いです。ネット上で読者に考察していただいたり。今の時代ならではだなと。

中島:Web発の漫画だからこそ。

久世:読者のみなさんと『うらみちお兄さん』って、近い存在なんだと思います。

中島:読者の方からの声が、作品に反映されることは?

久世:ありますね。キャラ宛に贈り物をいただいたこともあって。当時はまだ1話とか2話くらいを公開した頃だったんですけど、キャラが何かを食べているシーンもないし、どういう性格かもあまりわからない段階でも、食の好みなどをうまく予測してくださっていて。育てられていますね、読者に。

PVでの裏道の声優を神谷浩史さんにお願いしたのも、読者のみなさんからの反響がきっかけのひとつです。まだ連載も決まっていない段階で、裏道の声が神谷さんで再生されるって声をたくさんいただいていたんです。もしアニメ化したら声は神谷さんでお願いします!というすごくアツい反応があって。

中島:神谷さん、ラジオでも裏の顔とか出てくる時もありますし、イメージがぴったりですよね。

『うらみちお兄さん』のギャグはサスペンス映画から影響?

中島:単行本を発売されるにあたって、大幅に描き下ろされていますよね。

久世:4話分、だいたい1冊の半分くらいになりますね。第6~9話は、コミックスでないと読めないです。

中島:ウサオとクマオが脱いだ(笑)のは個人的にもびっくりしました。ずっと顔を出さないキャラだと思っていたので。

裏道の理不尽なイビリ、なんだかんだ裏道を慕う(?)後輩2人のやり取りも見どころ。

裏道の理不尽なイビリ、なんだかんだ裏道を慕う(?)後輩2人のやり取りも見どころ。

久世:単行本限定で顔を出すことについては、私がやたらとこだわり続けていました(笑)。藤原さんには、どちらでもいいんじゃないかって言われていたんですけど。

中島:いやいや、めっちゃ大事ですよ!

ちなみに私は第4話がお気に入りです。裏道の「朝起きた瞬間より職場に着いたときのほうが元気! 一周回って楽しくなるみたいな」っていう下りが、すごく分かる(笑)。で、朝礼始まると現実に戻るんですけど。

無敵モードになった気がする。そんな時もある。

無敵モードになった気がする。そんな時もある。

久世:そこ、連載当時から、結構共感の声が多かったですね。

中島:藤原さんは?

藤原:僕は、第5話に出てくるコーナーの「うらみち相談室」。この下りが好きすぎて。ネームの時点で、最高です!という話を久世さんにしたんですよ。裏道の台詞は現代思想の文脈を捉えていて…(中略)…これを見た時に『うらみち』イケるなと思いましたね。

現代思想・・・?『トリマニア』ファンにはおなじみの小鳥さんが進行役。裏道の夢に8割の頻度で出てくるらしい。

現代思想・・・? 久世先生のもうひとつの代表作『トリマニア』ファンにはおなじみの小鳥さんが進行役。裏道の夢に8割の頻度で出てくるらしい。

久世:そこで(笑)。

中島:5話といえば、裏道の「どこも痛くない時の幸せってさ、どこか痛いときにしか気付けないものだよね」っていうセリフが好きです。久世先生の作品は、深みがあるキャラクターが多いですよね。言うことに重みがあるというか。

久世:人のことを観察するのが好きなんです。「どういう経緯でこの人はこういう仕事についているのか」とか、そういうことを考える。仕草にも、生きてきたことって出るじゃないですか。自分のことは棚に上げて(笑)。

中島:人間観察のヒントって、どういうところから得ているんですか?

久世:小説や映画、バラエティ番組や漫才など、畑の違うところから学びたいとは意識しています。漫画を描き始めてから、漫画をあまり読まないようにしているんです。漫画表現から学びたくないというか、つられてしまうのが怖いので。好きな映画は何回も観ます。一回観て大体すべてが分かるものより、伏線が散りばめられているようなもの。この時は何を思ってこういう行動に出たのか、何を思ってこういうセリフがあるのかとかを考察できる映画ですね。

打ち返しが激しいコメディよりは、独特の間のあるサスペンス。人間の反射的な間というか。そこからギャグに落とし込んでいくと、意外と面白い気がしています。

中島:特定の作品で、活かされたものはあるんですか?

久世:活かしているかどうかは別として、最近、何回も繰り返して観ているのは『怒り』。李相日監督の作品が好きで。

藤原:李監督って、映画を撮る時に、役者を徹底的に追い込むことで有名ですよね。

中島:久世先生はキャラクターを追い込んでいらっしゃる……?

お姉さんの過去に何があった・・・?

お姉さんの過去に何があった・・・?

久世:どうなんでしょうね(笑)。映画だと役者と監督は別の人間ですが、漫画って、監督も役者もすべて作者自身なので。個々の存在ではなく。映画で役者さんを操るのは大変ですけど、漫画であればキャラクターが自分が思うように動く。だけど、ある程度そこは反発させないと面白くないというか。思った通りになりすぎてもダメだと、試練を与えないとダメだと思っています。

2巻は、さらに『うらみちお兄さん』の面白さが加速する!

中島:単行本でキャラクターの身長・体重、お酒・タバコ事情などが明らかになりましたが、その他の細かいプロフィールも決めているんですか?

久世:決めてはいるんですけど、合間合間で出していきたいです。1巻にも結構ヒントは隠れていますよ。特にサブキャラは、過去に何があったのかちょろちょろと……。

「ママンとトゥギャザー」は良い子のための番組! その裏でうらみちお兄さんは頑張っているのだ。

「ママンとトゥギャザー」はよい子のための番組! その裏でうらみちお兄さんは頑張っているのだ。

中島:そういうところを探しながら読み返しても面白いですね。2巻では何か新たな展開はありますか?

久世:「ママンとトゥギャザー」番組内の設定で、新しいコーナーをいろいろやっていけたらと思っています。1巻はオーソドックスなネタが多かったですが、2巻からちょっと幅を広げて。教育番組ならではのコーナーをいろいろ考えているので、お楽しみに。

久世岳先生の直筆POP

久世岳先生の直筆POP

■作品情報

『うらみちお兄さん』

久世岳 著、一迅社 刊

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久世岳(くぜ・がく)

2014年、第25回スクウェア・エニックス マンガ大賞で入選を受賞しデビュー。現在、comic POOLで「うらみちお兄さん」、ガンガンONLINEで「トリマニア」を連載中。

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中島美都(なかじま・みさと)

中島美都(なかじま・みさと)

SHIBUYA TSUTAYAのサウンドコーナースタッフ。声優・アニソン好き。

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