『坂道のアポロン』漫画家・小玉ユキにインタビュー。実写映画は「控えめに言って、最高」【映画化記念】

映画では、ジャズピアノにのめり込んでいくナイーブ男子・薫(中)を知念侑李(Hey! Say! JUMP)、薫をジャズの世界に誘うジャズドラマーの不良少年・千太郎(上)を中川大志、千太郎の幼馴染で薫が思いを寄せる女の子・律子(下)を小松菜奈が演じる。(c)小玉ユキ/小学館

映画では、ジャズピアノにのめり込んでいくナイーブ男子・薫(中)を知念侑李(Hey! Say! JUMP)、薫をジャズの世界に誘うジャズドラマーの不良少年・千太郎(上)を中川大志、千太郎の幼馴染で薫が思いを寄せる女の子・律子(下)を小松菜奈が演じる。(c)小玉ユキ/小学館

1966年、時代は高度成長期。古き良き風情を残す港町・佐世保、3人の高校生が“運命を変える”友情と恋、そして音楽に出会う――。

言葉なくともジャズで通じ合う友情、胸が焦がれるような片思い、将来への不安……そんなかけがえのない人生の1ページを、美しい風景とジャズが彩っていく。『坂道のアポロン』で描かれる物語には、涙が出るほどの憧憬を抱かずにはいられない。

そんな名作が、『ソラニン』『僕等がいた』『陽だまりの彼女』などの数々の青春映画を手がけてきた三木孝浩監督、知念侑李Hey! Say! JUMP)、中川大志小松菜奈出演で実写映画化(2018年3月10日(土)公開)! 公開を前に、誕生秘話や魅力に迫るべく、TSUTAYAの名物マンガ通書店員「仕掛け番長」こと栗俣力也氏が原作者の小玉ユキ先生に話を聞いた。

薫は小玉先生の鏡「私が男の子なら、こういう友情に憧れる」。男性と女性で見方が変わる人間描写が魅力

TSUTAYA仕掛け番長 栗俣力也氏(以下、栗俣):『坂道のアポロン』好きで集まって話すと、自分の青春時代と重ねて読んでいる人は本当に多くて。それぞれが誰かに共感して、自分の学生時代のことを思い出しながら読めるんですよね。特に薫と千太郎の友情は、すごく心に響きました。

栗俣が選ぶ『坂道のアポロン』名シーン(4巻 P32より)「薫の母親への千太郎の最高の一言のシーン。 グッときて何故か目頭が熱くなります……。」(c)小玉ユキ/小学館

栗俣が選ぶ『坂道のアポロン』名シーン(4巻 P32より)「薫の母親へ、千太郎の最高のひと言。 グッときて何故か目頭が熱くなります……。」(c)小玉ユキ/小学館

小玉ユキ先生(以下、小玉):お互いに救いになるような関係が描きたかったっていうのは、最初から考えていましたね。実は薫は、もし私が男の子なら、こういう友情に憧れるだろうなっていう意識も入っているんです。薫は自分を投影する鏡みたいなものかもしれません。千太郎は薫がひねくれている分、まっすぐな太陽のような存在で。でも隠している影はその分濃くて……みたいなところをじわじわと描いていきたかったんです。

栗俣:千太郎みたいなタイプは高校の時にいたんですよ。僕がかっこいいなと思ったのは、薫ですね。一本筋が通っていて、だけど頑固じゃなくて、周りの意見をちゃんと聞けて、自分の行動を思い出して凹んだりもするけどちゃんと反省できる、っていう。

『坂道のアポロン』って男性ファンも多くて、男同士で話すと、みんな共感しているのは千太郎と淳兄なんですよ。ダメなところをいっぱい持っていて、自分と重ねて読んじゃう。一方で、薫みたいに、こんなに素直に感情が出せる男子ってなかなかいないんですよ。男って、どうしてもカッコつけちゃうというか。

小玉:ええ!? 意外!私は薫への憧れはまったくなくて、千太郎と淳兄がそんな存在。むしろ女性には、薫は自己中だってよく言われるんです(笑)。たぶん、女子目線と男子目線で違うのかもしれませんね。

栗俣が選ぶ『坂道のアポロン』名シーン(2巻 P127より)「“メガネのくだり”といえばファンなら『わかる!』なシーン。 このあと事あるごとにメガネをとる薫がかわいいです(笑)」(c)小玉ユキ/小学館

栗俣が選ぶ『坂道のアポロン』名シーン(2巻 P127より)「“メガネのくだり”といえばファンなら“わかる!”。 事あるごとにメガネをとる薫がかわいいです(笑)」(c)小玉ユキ/小学館

栗俣:なるほど、女性目線だと、違うんですねぇ……。勉強になりました(笑)。

ノスタルジーが凝縮した昭和40年代が舞台。青春がいっそうキラキラ輝く

栗俣:1966年、昭和40年代っていう時代背景も、ノスタルジックでまたいいんですよね。スマホとか今ないものもたくさんあるけど、素敵なものがいっぱいあった時代。

小玉:私は60年代に漠然とした憧れがあったんです。千太郎の生い立ちみたいな戦争の影を残しているような一面もあるけど、みんな上を向いていて。学生運動があったり、経済成長が始まっていたりという、世の中を良くしていくぞっていう空気感に。あとは、レコードや黒電話といった、物が全部アナログなところ。

自分の親に“この時代はどうだった?”と取材できる時代だったのも大きいですね。親が、佐世保出身、佐世保育ちなので、60年代のこの土地で描く、ということは決めていました。

栗俣:作中でよく登場する、りっちゃん(律子)の家のレコード屋とか、淳兄の家のケーキ屋さんも実在するお店なんですか?

小玉:レコード屋さんは、うちの母方の祖父が一時期レコード屋さんをやっていて、そこをモデルにしたりはしましたね。(薫や千太郎がよくセッションをする)地下スタジオはありませんでしたけれど。レコード屋さんと楽器屋さんが一緒になった、狭い敷地で共同経営するような形のお店で。

ここも隣がケーキ屋さんだったんですよ。「しらゆり」じゃなくて「白ばら」というお店でした。移転してますが、今もあるお店です。

“漫画にジャズが流れる”。心情と音楽がリンクする心地よいライブ感

栗俣:ジャズもこの作品に欠かせない要素ですよね。僕はこの作品の“リズム”“テンポ”がすごく好きで。それが本当に心地よくて、この世界が終わってしまうのが嫌で、なかなか最終話が読めませんでした。はじめからジャズをテーマにすることは決めていたんですか?

小玉:はじめに薫と千太郎というキャラクターができて、そこからいろいろまとまってきた感じですね。この人がドラムで、こっちがピアノだったら楽しいだろうなというところから、60年代、佐世保、バンカラ、秀才、などの要素をいろいろ詰めていったら形になっていきました。

ジャズをテーマにしたのは、60年代という時代にジャズが合うと思ったからです。この時代のジャズ……フリージャズも流行りだすころなんですが、その少し前のモダンジャズが表現しやすいし、高校生がやっても無理がないのかな、と思ってそこに絞りました。

ピアノとドラムを描きたかったというのも理由ですね。ジャズならピアノとドラムがセッションできるので。コール・アンド・レスポンスみたいなやりとりを、男の子がワーワーと「こう来たか」「こうくるぞ」とやりあって、楽しくなっている様子を描きたいと思ったんです。

栗俣が選ぶ『坂道のアポロン』名シーン(2巻 P102より)「喧嘩のあとの地下室での演奏のシーンです。 音楽は全てを超える!的な楽しさのあるこのシーンが大好きです!」(c)小玉ユキ/小学館

栗俣が選ぶ『坂道のアポロン』名シーン(2巻 P102より)「喧嘩のあとの地下室での演奏のシーンです。 音楽は全てを超える!的な楽しさのあるこのシーンが大好きです!」(c)小玉ユキ/小学館

栗俣:ジャズのセッションが、薫や千太郎たちの“言葉のない会話”になっているんですよね。

僕は、『坂道のアポロン』を読んでジャズを聴くようになったんです。作中にレコードが出て来るから、やっぱりレコードで聴かなきゃって、買ってしまった(笑)。薫や登場人物たちと一緒にジャズを楽しみたくて。そういう読者は多いと思います。先生が『坂道のアポロン』を描いていた時に、一番聴いていた曲は何ですか?

小玉:やっぱり作中に出てくる曲はよく聴いていましたね。ジャズを聴いて、こういう曲が流れているっていうイメージをそのまま、紙に写し取っている感じで描いていました

アート・ブレイキー、ジャズ・メッセンジャーズ、ビル・エバンスチェット・ベイカー。薫と千太郎が浜辺でレコードの奪い合いをするシーンに出てくるホレス・シルバーも。アート・ブレイキーが一時期、一緒にやっていたジャズ・ピアニストですね。

ビル・エバンス「Portrait In Jazz」。小玉「薫は最初、静かなタイプのビル・エバンスのイメージで描いていたんですが、描き始めたらけっこう暴れる子だった(笑)。演奏が盛り上がっちゃうと、自分勝手にバーっと行っちゃうタイプ」

ビル・エバンス「Portrait In Jazz」。小玉先生「薫は最初、静かなタイプのビル・エバンスのイメージで描いていたんですが、描き始めたらけっこう暴れる子だった(笑)。演奏が盛り上がっちゃうと、自分勝手にバーっと行っちゃうタイプ」

ホレス・シルバー「Blowin' The Blues Away」。小玉「ホレス・シルバーの感じは私好みというか、(描きはじめてからの薫の)イメージに合っていましたのでよく聴いていました」

ホレス・シルバー「Blowin' The Blues Away」。小玉先生「ホレス・シルバーの感じは私好みというか、(描きはじめてからの薫の)イメージに合っていましたのでよく聴いていました」

栗俣:作中に曲が出てくるところで、その曲をかけながら読むと、本当にぴったりきますね。

小玉:ぜひ、聴きながら読んでいただきたいですね。例えば、千太郎が、尊敬している淳兄と喧嘩を彷彿とさせるお別れセッションをするシーンにも元ネタがありまして。実際に、名トランペッターのマイルス・デイヴィスと、ドラマーで年下のフィリー・ジョー・ジョーンズが「お前は年下だから来させねぇよ!」みたいな喧嘩をしているセッションがあって、それを聴きながら描きました。年下のほうが食らいついていく感じ。で、マイルスの「お前、やるなあ!」という感じも分かる曲なんです。

マイルス・デイヴィス&フィリー・ジョー・ジョーンズとのセッションが収録された「ワーキン Limited Edition」

マイルス・デイヴィス&フィリー・ジョー・ジョーンズのセッションが収録された「ワーキン

小玉先生「淳兄は、“かっこいい”を詰め込んだパックです。私、少年漫画で育ったので。『ろくでなしBLUES』とか。男だらけの世界でも飛び抜けたお兄さん的な存在の人。そこにチェット・ベイカーのイメージを重ねました」。

映画『坂道のアポロン』の演奏クオリティは小玉先生お墨付き!「想像を超えました」

栗俣:アニメでジャズセッションの場面が流れた次の日、書店にめちゃくちゃお問い合わせをいただいたんですよ。男性も女性も、それにおじいさんからも。「『坂道のアポロン』ていう漫画どこにありますか」って?

あと、アニメの最終回のあともお問い合わせがすごかったです。

小玉:最終回、すごく良かったですもんね。第1話、7話、12話は演奏シーンも素晴らしくて演出もニクいです。

栗俣:どれも神回ですよね!

小玉:実写映画も絶対に観ていただきたいです。全部九州でロケしているんですけど。4回行きました。演奏シーンを主に見せて頂きました。生でセッションを見て……感激しました!

何よりあの3人が、もうかわいくて……。知念くんは普段はアイドルなのに、メガネかけてピアノを弾くと、もう完全に薫です。見た目だけでなく、内面や動きも薫でした。

(C)2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 (C)2008 小玉ユキ/小学館

(C)2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 (C)2008 小玉ユキ/小学館

(C)2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 (C)2008 小玉ユキ/小学館

(C)2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 (C)2008 小玉ユキ/小学館

栗俣:知念くんは実際にピアノを弾いているんですね。

小玉:実際に弾いています。完璧に弾きこなしています。引きで撮られたシーンが多いのでわかると思いますが、手元だけ違う人が弾く、みたいなことは一切ありません。中川くんのドラムもそうです。実際に叩いてます。練習したからってあんなにできる人はなかなかいないと思います。しかもジャズなのでリズムも複雑で、それをあんなに楽しそうに弾いたり叩いたりできるというのは本当に信じられません。

栗俣:映画で音楽を担当されている鈴木正人さんは、アニメの方にも参加されていましたよね。

小玉:鈴木さんはアニメでは、菅野よう子さんのバンドでベースを弾いていらっしゃるんですよ。そのイメージを踏まえて、さらにかっこいいアレンジに仕上げてくださいました。

栗俣が選ぶ『坂道のアポロン』名シーン(5巻 P104-105より)「文化祭の後のすがすがしい見開き!ここは文化祭の演奏のシーンと 合わせてこのマンガのベストエピソードのひとつだと思います!」(c)小玉ユキ/小学館

栗俣が選ぶ『坂道のアポロン』名シーン(5巻 P104-105より)「文化祭の後のすがすがしい見開き!ここは文化祭の演奏のシーンと 合わせてこのマンガのベストエピソードのひとつだと思います!」(c)小玉ユキ/小学館

監督たちと打ち合わせをした時に、「文化祭メドレーをこういう感じでやろうと思います」って聴かせていただいたものが、すごく難易度が高そうで……(役者が演奏するのは)無理じゃないですか……?って思っていたんですけど。実際に撮影現場でセッションを見たら、もう、はるかに想像を超えてきたんですよ。たぶん、観たらみんなびっくりすると思います!

栗俣:先生も納得の仕上がりなんですね。

小玉:納得どころか、こんなにいいものを作っていただいていいのか?!という気持ちです。演奏も、役者さんの演技も、演出も、美術も……他の要素も全て素晴らしいです。控えめに言って、最高です。

栗俣が選ぶ『坂道のアポロン』名シーン「最後の坂道のカラー。 物語の全てを語るこの一枚は名シーンで抜くことが出来ないシーンです!」

栗俣が選ぶ『坂道のアポロン』名シーン「9巻の最後は、物語の全てを語る見開きが待っています! ぜひ読んで目の当たりにしていただきたいですね」

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小玉ユキ先生による直筆のPOP。TSUTAYA三軒茶屋ほかで展示予定。

小玉ユキ先生による直筆のPOP。TSUTAYA三軒茶屋ほかで展示予定。小玉先生は『坂道のアポロン』以前は短編を多く手がけ、『光の海』『羽衣ミシン』など短編ファンも多い。栗俣氏も小玉先生の短編フェアを組んだことがあるほど。2018年2月9日(金)には短編集『ちいさこの庭』が発売になる。(c)小玉ユキ/小学館

■公開情報

映画『坂道のアポロン』
2018年3月10日(土)全国ロードショー

出演:知念侑李  中川大志  小松菜奈
真野 恵里菜 / 山下 容莉枝 松村北斗(SixTONES/ジャニーズJr.) 野間口徹
中村梅雀  ディーン・フジオカ
監督:三木孝浩
脚本:髙橋泉
原作:小玉ユキ「坂道のアポロン」(小学館「月刊flowers」FCα刊)
配給:東宝=アスミック・エース

<あらすじ>

医師として病院に勤める西見 薫。忙しい毎日を送る薫のデスクには1枚の写真が飾られていた。笑顔で写る三人の高校生。10年前の夏、二度と戻らない、“特別なあの頃”の写真……あの夏、転校先の高校で、薫は誰もが恐れる不良、川渕 千太郎と、運命的な出会いを果たす。二人は音楽で繋がれ、荒っぽい千太郎に、不思議と薫は惹かれていく。ピアノとドラムでセッションし、千太郎の幼なじみの迎 律子と三人で過ごす日々。やがて薫は律子に恋心を抱くが、律子の想い人は千太郎だと知ってしまう。切ない三角関係ながら、二人で奏でる音楽はいつも最高だった。しかしそんな幸せな青春は長くは続かず――。

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小玉ユキ(こだま・ゆき)

2000年に『柘榴』でデビュー。『坂道のアポロン』が「このマンガがすごい!2009」のオンナ編で1位、第57回小学館漫画賞一般向け部門を受賞。TVアニメ化もされた。その他作品に『月影ベイベ』『羽衣ミシン』などがある。2018年2月9日(金)に短編集『ちいさこの庭』が発売される。

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仕掛け番長

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TSUTAYA三軒茶屋店で働く本屋さん。文庫プロデュースやコミックライブの企画、司会などいい作品をあらゆる方法でとことんオススメする事が生きがいです!
・100万人が選ぶWEBマンガ実行委員会委員長
・著書『マンガ担当書店員が全力で薦める本当にすごいマンガはこれだ!』

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