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【レビュー】映画『ドント・ブリーズ』―今冬最高の緊張感!若者強盗団VS狂気の老兵のデスマッチ。

 

(C)2016 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.

デトロイトの現状を落とし込んだ社会派スリラー

巷では『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』や『妖怪ウォッチ』が話題に上っているが、これらの大衆向け作品の陰で独自の存在感を放つ映画が公開したのを知っているだろうか?『死霊のはらわた』(13)やテレビシリーズ『フロム・ダスク・ティル・ドーン ザ・シリーズ』で知られるフェデ・アルバレス監督の最新作『ドント・ブリーズ』は、その名の通り観客に息をすることを許さない、この冬最高の緊張感を与えてくれるスリラーだ。

物語の舞台はデトロイト。強盗稼業を営むロッキー(ジェーン・レヴィ)、アレックス(ディラン・ミネット)、マニー(ダニエル・ゾヴァット)の3人組は、娘が犠牲になった事件の慰謝料として30万ドルを得たと噂される「盲目の老人」(ステファン・ラング)の家に侵入することを決める。首尾よく侵入した3人だったが、湾岸戦争を経験した退役軍人である老人は、鍛え上げられた肉体と鋭敏な感覚を用いて、3人を追い詰めていく…。

脚本も担当したアルバレス監督は、緊張感を生むのが実にうまい。物語は家の中という限定された空間において進行するので、必然的にカメラと被写体の距離感は近くなり、これが緊張感を生む閉塞感を画面に漂わせるのだが、本作のキーマンである「盲目の老人」の存在は、別種の緊張を与えるギミックとして上手く機能している。というのも、「盲目の老人」は健常者には「見えない」世界で生きているため、その行動を予測することは極めて困難なのだ。

 

(C)2016 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.

しかも性質が悪いことに、この老人は退役軍人であるため、隠密行動に長けている。つまり、移動する際に音をほとんど立てないのだ。そのため、ロッキーたちが少しでも隙を見せると、いつの間にか至近距離にいるのである。そして、彼は視力を失った代わりに鋭敏化された聴覚・嗅覚・触覚を有しているため、初めてこの家に入ったロッキーたちが立てた物音、残した香り、触れたものなどを手掛かりに、自分との距離感をすぐさま把握してしまう。ロッキーらがいかに逃げようと試みても、必ずその後を追い続ける姿は、実に不気味で恐ろしい。

ペドロ・ルケによる撮影も秀逸。劇中では細かくカットを繋ぐのではなく、長回しを多用することで「追う者」と「追われる者」の駆け引きから生じるサスペンスが増加させられており、画面のそこここに現れる陰影も、さりげなく恐怖を増幅させる小道具として機能している。また、観客の視線を何らかの対象物に固定してから、一連の流れとして不意に現れた「盲目の老人」を映すというカメラワークも効果的に驚きを生んでいる。「盲目の老人」が愛するものを失ったことによって激怒したあとに繰り広げられる「暗闇」でのシークエンスも最高だ。暗視カメラを用いて撮影されたであろうこの場面では、引きつった表情を浮かべながら手探りで前進するロッキーたちの姿と、これとは対照的に無表情ですいすいと暗闇を移動して標的を排除しようとする「盲目の老人」の姿がクロスカッティングで描かれることによって、劇中でも屈指の緊張感が生まれている。

ロッキーたちの活動可能空間が、ストーリーの進行に比例して減少していくという構成もうまい。最初は家全体を使うことができたものの、「盲目の老人」の介入によって、ロッキーたちは「フロア」→「部屋」→「地下室」→「格子付きの部屋」→「ダクト」→「車」という具合に逃げ場所を失っていくのだ。これに伴い閉塞感や緊張感は高められ、そうした困難な状況を打開しようとロッキーらが見せる打開策の数々も、こちらの予想をことごとく超えていくため、観客は退屈させられることがない。

 

(C)2016 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.

登場人物に複雑な背景が組み込まれていることによって、緊張感に満ちたスリラーとしてだけでなく、社会派ドラマとして成立している点にも言及すべきだ。ロッキーたちが暮らすデトロイトは、2013年の夏に財政破綻した。それ以来、同都市の現実は悲惨なものになっている。廃墟が立ち並び、町には人の影もまばら。財政の立て直し策は一定の効果を発揮したものの、状況はいまだに芳しくない。当然、若者に職はない。就職支援も行われているが、交通機関が機能していないため、通い続けることは困難だ。結果的に、若者が人生をやり直すには、ロッキーのように犯罪に手を染めるしかないケースが多い。実際、デトロイトの犯罪率は全米でも屈指の高さを誇る。犯罪率そのものは年々少しずつ低下しているものの、これは過疎化が招いた結果であるため、やはり同都市の未来は暗い。ロッキーは時代に恵まれなかった若者なのだ。

劇中ではこうした社会情勢は具体的に語られていないのだが、観客は「悲惨な今」から脱出しようと試みるロッキーに、「盲目の老人」から逃げおおせてほしいと期待の念を抱くことになる。無論、いかなる背景や目的があろうと、犯罪は(基本的には)正当化されるものではないのだが、観客はどん底から這い上がろうと奮闘するロッキーの姿を見ることで、少なからず彼女を応援したくなるのだ。「生き延びてほしい」という観客の思いは、サバイバルを描く物語においてサスペンスを高める副次的要素として機能するため、本作のようなタイプのスリラーでは主人公を応援できることが何よりも重要になる。アルバレス監督はこの点を十分に理解して、ロッキーのバックボーンとストーリーをうまく調和させた。

中盤から終盤にかけて、「盲目の老人」がロッキーとは別種の深刻な問題を抱えているという事情が挿入されるのも素晴らしい。これによって、強盗VS家主というそれまでの図式は破壊され、物語には強盗VS狂人という新たな構図が浮かび上がる。「盲目の老人」の悪意が全開になり、ロッキーたちがさらなる恐怖に落とされていく様は圧巻の一言に尽きる。ところで、老人が退役軍人であるという点が気になった読者もいるだろうが、デトロイトは退役軍人が非常に多い都市でもある。米国勢調査局が2012年に行った調査によれば、総人口約70万人の市民のうち、3万9265人が退役軍人とのこと。先述したように、デトロイトでは犯罪に手を染める若者が少なくない。そして退役軍人も多い。つまり本作は、実際に起こり得るストーリーを描いているのだ。製作費・約990万ドルに対して、全世界でおよそ1億5000万ドル(※12月20日現在/BoxOfficeMojo調べ)の興行収入を稼ぐという好成績を残した背景には、このリアリティが少なからず寄与しているはずだ。

88分という短い上映時間の中に緊張感を凝縮し、社会派としての側面も垣間見せる本作は、上質なシチュエーション・スリラーとして完成されている。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』や『妖怪ウォッチ』といった超がつくほどの話題作と公開が重なったことが惜しまれるが、大画面を通じて得ることができる本作の恐怖体験は一見の価値ありだ。アルバレス監督は、なんと本作が二本目の長編映画。その手腕に拍手を送るとともに、今後のさらなる活躍に期待したい。

(文:岸豊)


映画『ドント・ブリーズ』
公開中

監督:フェデ・アルバレス『死霊のはらわた』(13)
脚本:フェデ・アルバレス、ロド・サヤゲス『死霊のはらわた』(13)
製作:サム・ライミ『死霊のはらわた』(81/13)・『スパイダーマン』シリーズ、ロブ・タパート『死霊のはらわた』(81/13)
出演:ステファン・ラング『アバター』、ジェーン・レヴィ『死霊のはらわた』(13)、ディラン・ミネット『プリズナーズ』、ダニエル・ゾヴァット『イット・フォローズ』

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