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映画『僕と世界の方程式』―恋をすると世界は変わる。【連載コラムVol.17】
映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。
第17回目はモーガン・マシューズ監督の長編映画デビュー作『僕と世界の方程式』。他人とのコミュニケーションが苦手で、数字と図形だけが友だちだった天才少年ネイサンだったが…。彼を変えた出会いと成長、そして印象的な台詞に思わず心を掴まれてしまった一本。

(C)ORIGIN PICTURES (X&Y PROD) LIMITED/THE BRITISH FILM INSTITUTE / BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2014
数学は苦手科目ナンバーワンだったが、数学の映画を観ることは好きだ。映し出される数式や方程式はちんぷんかんぷんであっても、それらに向かい合う人たちの視点や思考は新鮮で、数学を通して見えてくる世界、ドラマがある。思い返してみると──たとえば、マット・デイモン主演の『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』、ラッセル・クロウとジェニファー・コネリー共演の『ビューティフル・マインド』、グウィネス・パルトロウとジェイク・ギレンホール共演の『プルーフ・オブ・マイ・ライフ』など数学の世界に生きる主人公たちから受け取ったのは、個性、こだわり、諦めないこと、信じること、支えること……たくさんのメッセージ。感動した作品ばかりだ。

(C)ORIGIN PICTURES (X&Y PROD) LIMITED/THE BRITISH FILM INSTITUTE / BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2014
『僕と世界の方程式』もそれらに通じる映画だった。主人公のネイサン(エイサ・バターフィールド)はコミュニケーションが苦手で他人と上手く接することができず、医師からは自閉症スペクトラムと診断される。ネイサンの唯一の理解者だった父親のマイケルが不慮の事故で亡くなったことで、ネイサンは殻に閉じこもり、母親のジュリーは息子とどう接していいのか悩んでいた。ネイサンが9歳のときにジュリーは数字や図形に異常な興味を持っている息子のために、数学を教えてくれる教師を探す。そしてかつて数学オリンピックに挑戦したことがあるけれど、今は多発性硬化症を発症して人生を諦めかけていたマーティンと出会い、ネイサンの世界は少しずつ拓けていく。

(C)ORIGIN PICTURES (X&Y PROD) LIMITED/THE BRITISH FILM INSTITUTE / BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2014
映画のなかにとても印象的なセリフがある。国際数学オリンピックを目指すなかで、参加者のひとりがネイサンに向かって言うセリフ「普段、どんなに変人でも数学が得意でもここではそれが普通よ」。ネイサンのことを自閉症だと分からず発していたとすると、数学において地元で天才であってもひとたび世界へ出れば、天才の集まりのなかでは、大勢のなかの1人であるという意味に。また自閉症であることに沿った言葉としてみると、学校のなかで変わっている生徒であっても自分の力を発揮できる世界を見つけることで普通になれるという意味に捉えられる。ネイサンは、国際数学オリンピックのイギリス代表チームのメンバーになることで合宿に参加し、そこで広い世界を見ることになる。

(C)ORIGIN PICTURES (X&Y PROD) LIMITED/THE BRITISH FILM INSTITUTE / BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2014
なかでも大きな変化となるのが、中国チームのチャン・メイと出会うことだ。恋をすると世界は変わる。昨日までグレーだった色がカラフルに輝き出す。母親とのコミュニケーションですら難しかったネイサンが初恋を経験することで変わっていく、その変化──感情に“気づく”瞬間に感動する。人はどうして悲しくなるのか、どうして笑うのか、どうして愛しいと思うのか……喜怒哀楽を感じるのは当たり前だと思っていたけれどそうじゃない、特別なこと、素晴らしいことなのだと。そのきっかけとなるのがチャン・メイとの恋で、恋も方程式で解決しようとするところは何とも可愛らしい。そして人を好きになる感情はどういうものなのかを母親のジュリーがネイサンに語るシーンが後半にある。感情を説明することは実はとても難しいことだけれど、ジュリーのその言葉はとてもわかりやすくて、とても愛に満ちていて、記憶に留めておきたいと思う素敵なセリフだ。あたたかい涙、やさしい涙が流れた。

(C)ORIGIN PICTURES (X&Y PROD) LIMITED/THE BRITISH FILM INSTITUTE / BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2014
余談だが、この『僕と世界の方程式』をものすごく気に入った人は上記で挙げた映画のほかに『シンプル・シモン』も好きになってもらえそうな気がする。ほかにも、少し前に公開した『ザ・コンサルタント』、これから公開の『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』も何か通じるものがあるような……。直感や感覚は数式のように明確な答えを導きだせないものだが、何か感じる、何か引っかかる、そういう感覚は意外と当たっているもの。実は映画を観るときはその感覚を最優先させている気がする。
(文・新谷里映)

フリーライター、映画ライター、コラムニスト
新谷里映
情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。
映画『僕と世界の方程式』
2017年1月28日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAほか、全国順次ロードショー
監督:モーガン・マシューズ
出演:エイサ・バターフィールド/サリー・ホーキンス/レイフ・スポール/エディ・マーサン
原題:X+Y/2014年/イギリス映画/英語/111分/カラー/シネマスコープ
後援:ブリティッシュ・カウンシル
配給:レスぺ
PG12
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