1. TSUTAYAトップ
  2. TSUTAYA News
  3. 映画
  4. 映画『ジョーカー』レビュー:見る者を打ちのめす、哀しき悪の誕生劇。【第92回アカデミー賞】

映画『ジョーカー』レビュー:見る者を打ちのめす、哀しき悪の誕生劇。【第92回アカデミー賞】

TM & (C) DC. Joker (C) 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.

TM & (C) DC. Joker (C) 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.

映画『ジョーカー』は、鑑賞後にしばし言葉を失うほど強烈な作品である。この物語で描かれる一人の男の姿は、気楽に見続けられるものではなく、彼が見舞われる悲劇とやがて発露する狂気に向き合い続ける覚悟を要求される。はっきり言ってしまえば、鑑賞のハードルが高い映画なのだが、脚本・演出・芝居の見事な融合が生んだ映画としての価値は計り知れない。Blu-ray&DVDのリリースを祝して、その魅力を再び解剖してみよう。

物語の主人公は、陰鬱な空気をまといながら衰退の一途をたどる「ゴッサムシティ」で暮らすアーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)だ。派遣のピエロを生業としており、認知症気味の母親を献身的に支えながら、日々を懸命に生きようとしている男である。神経系の精神疾患から笑いが抑えられないという特殊な障害を抱えているアーサーは、苦境に喘ぎながらも真面目に生きてきたのだが、ある事件を起こし、自身の出生の秘密を知ったことをきっかけに、社会を揺るがす巨悪へ変貌していく…。

TM & (C) DC. Joker (C) 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.

TM & (C) DC. Joker (C) 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.

上質な映画には上質な脚本が不可欠である。コメディ映画『ハングオーバー!』シリーズで知られるフィリップス監督は、本作で脚本家スコット・シルヴァー(『8Mile』 『ザ・ファイター』など)とタッグを組み、ダークでヘヴィな「悪の起源」を描いている。物語の前半では、ゴッサムシティで暮らすアーサーの姿を落ち着いたトーンで映し出す。心の病を抱えながらもコメディアンになることを夢見て健気に人々を笑わせようとする姿、そしてそのひたむきな姿勢が踏みにじられていく様を、無慈悲な社会情勢や哀しい家庭環境の描写を交えながら、観客に目撃させるのだ。このプロセスを通じて、観客はアーサーに対する同情や憐憫を抱くこととなる。

これまでにジャック・ニコルソン、ヒース・レジャー、ジャレッド・レトが演じたジョーカーは(実写映画というくくりの中では)「すでにジョーカーとして存在しているジョーカー」として登場していた。だがフィリップス監督とシルヴァーは「一人の善良な市民(アーサー)がジョーカーになるまで」を描くという異なるアプローチを取り、その過程においてアーサーの性格描写を積み上げることで、また別種の魅力を孕んだジョーカーを形成している。その結果、観客はジョーカーという人間に、これまでにないほど長く向き合うこととなり、本作は他のジョーカーを描く映画とは異なる個性を確立する。

TM & (C) DC. Joker (C) 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.

TM & (C) DC. Joker (C) 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.

丁寧な性格描写、そして胸を突くセリフの数々が込められた脚本に加えて、シンボリックなシーン構成の数々も、フィリップス監督の持つ非凡な才能を証明している。特に印象的なのは、狂気的行為に伴ってアーサーの体が光に包まれることだ。悪への道を踏み出し、やがて混沌の使者に生まれ変わっていく彼を祝福するかのような光は、そのシチュエーションとのギャップによって見る者に驚きと戦慄を与える。残酷な社会的ヒエラルキーを象徴した階段やエレベーター、思わず目をそむけたくなるような暴力描写においても切れ味鋭いシーンを形成しているフィリップス監督は、本作で「おバカコメディの名手」というイメージを払拭するとともに、映画監督としての作家性に厚みを出すことに成功している。

無論、本作で最大の輝きを放っているのは、主演のホアキンである。これまでに『グラディエーター』『her/世界でひとつの彼女』 などで演技巧者であることを証明してきたホアキンだが、本作では一人芝居で魅せる。ジョーカーが登場する過去の映画において、ジョーカーは基本的に他者と絡むことが多かったが、本作では心の病を抱えているという設定も相まってか、アーサー一人の姿がたびたび映し出される。それらのシーンで見せるホアキンの芝居は実に繊細で、キャラクターに力強いリアリティを与えている。接写でとらえられる表情、遠写で捉えられる全身の動き、彼の一挙手一投足には、各シーンに調和した感情表現が伴われているのだ。

TM & (C) DC. Joker (C) 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.

TM & (C) DC. Joker (C) 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.

肉体的な役作りにも目を見張るものがある。これまでのキャリアを見返してみると、ホアキンはがっしりとした体つきで出演することが多かったように思うが、本作では病的なほど痩せ細った肉体を見せている。ピエロ派遣会社の楽屋や、自室で腰かけている姿は衝撃的で、その枯れ枝のような体は、アーサーが抱く哀しみと孤独を如実に物語っている。精神的・肉体的にアーサーという人物を丹念に肉付けしたホアキンの芝居は、映画の歴史に新たなる1ページを刻んだと言っても過言ではない。

笑えるジョークを作れない男が、自身が笑いものとなり、やがて笑えないジョークで社会を震撼させる。そんな皮肉を描く本作は、言わずもがなフィクションである。しかし、現実からかけ離れたものだろうか? 私はそうだと思わない。社会に愛されず鬱屈した感情を抱える人々は、世界中に数多くいる。負の感情を蓄積し、様々な個人的事情が絡み合った結果として、陰惨な事件を起こす者は存在する。本作で描かれる事件は、映画的に戯画化されたものだが、「鬱屈した男の暴走」という意味では、本質的には現実とそう変わらないのではないか。作り物としての虚構性に現実性が重なる。この発見によって、本作は見る者の心に重くのしかかる。

TM & (C) DC. Joker (C) 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.

TM & (C) DC. Joker (C) 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.

不遇な男の狂気を描くという意味で、本作にも重要な役どころで出演しているロバート・デ・ニーロが主演を務めた『タクシー・ドライバー』 『キング・オブ・コメディ』といった名作と近い匂いを感じさせる本作だが、結末まで見届けた観客が抱くのは既視感ではない。悲劇と恐怖と諧謔の融合による、全く新たな映画体験だ。だからこそ、本作はベネチア国際映画祭の金獅子賞(最高賞)をはじめ、第77回ゴールデングローブ賞の主演男優賞(ドラマ部門)に輝き、全米で興行収入10億7,000万ドル(Box Office Mojo調べ/2月1日時点)/日本では50億円超のヒットを記録しているのだろう。

賞レース・興行収入で映画の価値が決まるわけではないが、これらの実績は紛れもなく、本作の完成度の高さを証明する指標である。ジョーカー(アーサー)という哀しい男の、ナイフのように怪しく危険な誕生劇を作り上げたフィリップス監督、ホアキン、そして全てのスタッフは、大きな拍手を与えられるに値する。恐らく今後も、ジョーカーというアイコニックなキャラクターを描く映画は作られ続けていくだろうが、本作は様々な観点から判断して、その歴史において一つの、そして明確な基準になったと言える。世間では最多11部門にノミネートされた第92回アカデミー賞で話題が持ちきりだが、その結果がいかようなものになろうと、この映画は語り継がれていくべき1本である。

(文:岸豊)

>関連記事:『ジョーカー』のホアキン・フェニックスって何者?【第92回アカデミー賞】
関連記事:『ジョーカー』は「バズるべき映画」だった! 世界的ヒットを振り返る【第92回アカデミー賞】


『ジョーカー』
TSUTAYA TVにて配信中/Blu-ray&DVDレンタル・発売中

ジョーカー

ジョーカー

出演者 ホアキン・フェニックス  ロバート・デ・ニーロ  ザジー・ビーツ  フランセス・コンロイ  マーク・マロン  ビル・キャンプ  グレン・フレシュラー  シェー・ウィガム  ブレット・カレン  ダグラス・ホッジ
監督 トッド・フィリップス
製作総指揮 マイケル・E・ウスラン  ウォルター・ハマダ  アーロン・L・ギルバート  ジョセフ・ガーナー  リチャード・バラッタ  ブルース・バーマン
脚本 トッド・フィリップス  スコット・シルバー
音楽 ヒルドゥル・グーナドッティル
概要 ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した衝撃のサスペンス・ドラマ。DCコミックスのスーパーヒーロー、バットマンの宿敵“ジョーカー”に焦点を当て、コメディアンを夢みる心優しい男が、いかにして悪のカリスマへと変貌を遂げていったのか、その哀しくも恐ろしい心の軌跡を重厚な筆致で描き出す。主演は「ザ・マスター」のホアキン・フェニックス。共演にロバート・デ・ニーロ、ザジー・ビーツ。監督は「ハングオーバー」シリーズのトッド・フィリップス。大都会の片隅で、体の弱い母と2人でつつましく暮らしている心優しいアーサー・フレック。コメディアンとしての成功を夢みながら、ピエロのメイクで大道芸人をして日銭を稼ぐアーサーだったが…。

 作品詳細・レビューを見る 

この記事を読んだ人におすすめの作品

アーティスト情報

ホアキン・フェニックス

生年月日1974年10月28日(46歳)
星座さそり座
出生地プエルトリコ

ホアキン・フェニックスの関連作品一覧

ロバート・デ・ニーロ

生年月日1943年8月17日(77歳)
星座しし座
出生地

ロバート・デ・ニーロの関連作品一覧

関連サイト

おすすめ映画ガイド

TSUTAYA MUSIC PLAYLIST