人間が電脳世界の住人として生きているという設定をはじめ、心くすぐられるワードの雨あられでSFテイストを押し出し、さらにロボットが登場しての迫力の戦闘シーン。序盤から心わしづかみにしてくれるハイテンションな展開に心躍らされる。ロボットの変形ギミックも凝っていて、終盤に強化タイプが登場するのもテンションが上がる。

そんな近未来チックな空気感をあふれさせながら、物語は物語世界における現実空間へ。このあたりの進み方はストーリーの奥行きやその後のドラマにつなげる意味では欠かせない要素ではあるが、ノリノリだったそれまでと比べるとややトーンダウン感も否めない。とはいえ、仮想と現実における対比が効いているのはたしかだ。

今作は3DCGで描かれているのだが、ヌルッと動きでいかにも感は抑えられているのが好感。手法的には「セルルック」と呼ばれる、2Dで描かれたセルアニメのような表現。これにより違和感なく自然に鑑賞できるので、よりストーリーに没入できるのがいい。

作品的にはSFよりではあるもののバディーものとしてもOK。アンジェラとディンゴがぶつかり合いながらも難曲に立ち向かう姿は素直に熱くなってしまうほど。作品としての個性を出しつつも王道の良さも取り込み、多くの人を楽しませようという意図が感じられ拍手を贈りたい。

一見するとユートピアのように見える電脳世界だが、立ち止まって考えると管理され人としての尊厳も…と疑問に感じる部分もあり、アンジェラの心情の揺れと共に観ている自分たちも自然と考えさせられる。それでいて一方を礼賛しもう片方を否定という単純な描き方をしていないのが奥ゆかしく、あらゆる選択肢を提示してくれるのも抜かりないと感じた。

『楽園追放 Expelled from Paradise』で一番グッときたポイントは「キャラクターの立ち位置」

神谷浩史が声を演じるフロンティアセッター。デザイン面もさることながら、その思考回路も抜群で、アンジェラに敵対するわけでもなく先頭を歩こうとするわけでもなく、並んで歩むというスタンスが素敵だ。

『楽園追放 Expelled from Paradise』について

【製作年】2012年
【監督】ピーター・ラムジー
【声の出演】釘宮理恵、三木眞一郎、神谷浩史、林原めぐみ、高山みなみ、三石琴乃 ほか
【あらすじ】「機動戦士ガンダム00」の水島精二監督と「魔法少女まどか☆マギカ」の脚本を手がけたニトロプラスの虚淵玄がタッグを組んで贈るSFアクション。人類の大半が電脳世界で暮らすようになった未来の地球を舞台に、謎のハッキング犯を追う女性捜査官の活躍を描く。
【Filmarks★評価】3.7（5点満点中）