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【90年代生まれドンズバ映画】菅田将暉×有村架純『花束みたいな恋をした』――なぜこんなにも自分事化してしまうのか?

illustration by nony

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『花束みたいな恋をした』を見に行った。

もともと、アクションやサスペンスが好きな私にとって、「恋愛映画」はむずがゆさを感じる苦手分野だった。しかし、こんなにも自分事化した映画に出会ったのは27年間生きてきてはじめてだったかも知れない。それは本作の登場人物たちが「人生の再定義」に揺れ動く物語だったからだ。

2010年代の出来事、思考を冷凍保存するような時代性の反映

(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

本編が始まる直前、混み合う映画館のC列に腰かけようとしたら、映画に誘ってくれた隣の席の恋人からこんな質問をされた。

「この映画終わって、『別れる』って言わない?」

映画を観終わった後にこの質問の意味が分かった。本作は、経年変化していく“2010年代にありきたりな若者の恋愛”をありのままに描いていたからだ。

物語は2020年の喫茶店、菅田将暉演じる山音麦と有村架純演じる八谷絹がそれぞれ別のパートナーとお茶をしているシーンから始まる。
そこから物語は、二人の出会いとなる2015年の終電後の明大前駅改札へ戻る。カルチャーを通じて運命的な出会いを果たしたふたりは、様々なシンクロニシティを感じながら、付き合い、何気なくも幸福な日常が始まる。しかし、学生から社会人の過渡期を経る中で、生活習慣は変化し、価値観も変わっていく…。

(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

本作を自分事化する要因の一つは、緻密な時代性の反映だ。ふたりが惹かれあうきっかけとなる映画や音楽、漫画やゲームなどのサブカルチャーから始まり、就職活動の圧迫面接、ブラック企業問題、自然災害など。軽快なセリフ回しにのせて、大きな話題から、SNSでつぶやかれるような些細な価値観まで、2015年から2020年の時代性を細やかに反映している。

特に90年代生まれに筆者にとって、映画を観ながらあらゆるシーンで登場人物たちと、その当時の記憶を重ね合わせ「そんなことあったな」という“わかりみ”により、圧倒的な没入感が生み出されているのは言うまでもない。

「じゃあ、行けばいいんでしょ」
「『じゃあ』ってなに?」

(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

海辺のデートシーンや河川敷で焼きそばパンをほおばる姿には自分もその場にいるような多幸感に包まれるのだが、それと同時に喧嘩による不和の空気感にも、まるで自分事のように強く体感してしまう(ちなみに、私の場合は、『じゃあ』に加えて『別に~だけど』と口走りよく喧嘩になるなぁなど)。

だからこそ、劇中で、ふたりが過去の写真を見返して「若い」と言い合うシーンには、心の底から本当に時の流れを感じた。2時間ほどの上映時間にも関わらず、登場人物たちと5年の歳月を実際に過ごしたかのような感覚が生まれた。

社会に対峙するときに生まれる「人生の再定義」

(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

実際にSNSでも、自分と重ね合わせて本作を語る声が多く散見される。中には、実際に本作をきかっけに別れたカップルの投稿も見受けられた。この作品がこれほどまでに自分事化され、さらにはその人の実生活にも影響を与えるのは、先に述べた時代性の反映に合わせて、「人生の再定義」についての物語である点が深く関わっているのではないだろうか。

麦と絹は出会う前から、それぞれがサブカルチャーに傾倒し、“大衆”からは距離を置き、自分の世界を構築していた。それは、誰かに認められることも、共有する必要もない自己完結した世界ともいえる。それが、たまたま映し鏡のような相手と出会ったことで、奇跡的にふたりの世界がひとつに溶け合っていく(後に、ミイラ展や『劇場版ガスタンク』など、完璧な同質ではなかったことも判明するが)。

運命的で堅牢なふたりの世界の中で人生を過ごしていた麦と絹。しかし、学生という身分を卒業することで、否応なく経済的な自立に迫られ、完結していたふたりの世界の殻から抜け出し、それぞれが社会の一員として仕事を始める。それまで自己完結した世界でモラトリアムを満喫していたふたりが仕事を通して社会と対峙するとき、「この社会において、自分の人生をどう生きていくのか?」という「人生の再定義」に迫られている。

(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

絹は自分の好きなことを仕事にするため、安定した事務職からベンチャー企業へと転職をするなど活動的に仕事を選択していく。一方で麦はイラストを続けられる範囲の中で、ネット通販の物流関係の会社に就職するものの、激務に忙殺されていく日々が続く。絹は意識的に仕事を通した人生を「自分の世界(麦と共有していた世界)」の延長線上に位置づけることができた。一方で麦は無意識的に「自分の世界(絹と共有していた世界)」が消失し、仕事そのものが主体となる「新たな世界」に人生を再定義することとなった。それまで同一線上にあったふたりの人生は、仕事の向き合い方によって、交わることのない世界線に再定義されたのだ。

ふたりの再定義の方向性の良し悪しについて、私に判断はできない(実際に絹は経済的な不安定さを抱えているかも知れないし、麦は今の仕事にやりがいを見出しているのかも知れないのだから)。いずれにしても、この作品は恋愛映画でありながら、社会と対峙した若者が直面する意識的・無意識的な「人生の再定義」の機微に揺れ動く物語でもあるのだ。

(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

「これから40年この仕事を続けるのだろうか?」

ふたりが社会と対峙した時に生じた「人生の再定義」は現代の若者にとっても普遍的だ。私も社会人2年目の時にふと、ネガティブではなく、上記のような夢想をしていたことを思い出した。3年後、4年後の姿を大体想像できていた中学、高校、大学とは大きく異なり、自分の人生を40年以上の長期スパンで実感として捉えた時、社会との関わりの中で「自分の人生の在り方」について、今一度位置づけなければならないように感じたのだ。現に私の周りでも、この時期にまったく別の業種に転職したり、大学に入りなおしたりする同期の友人は少なくなかった。

「人生の再定義」の繰り返しによる積み上げ式アイデンティティ形成

(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

私が「再定義」という言葉を使ったのは、現代において、「人生の定義づけ」(アイデンティティの形成)が一度で完結しにくいと考えるからだ。

“モラトリアム人間”という言葉が誕生した1970年代からすでに半世紀近く。より加速度的に変化する社会において、仕事ひとつをとっても、終身雇用が崩壊し「天職=人生」から「転職=人生」が多くの社会人にとって当たり前になっている。だからこそ、社会に出て、社会にもまれ、時には流されながら、積み上げ式でアイデンティティを醸成していく若者は少なくないだろう。また多様化するライフスタイルの中では、就職・転職にとどまらず、恋愛・結婚・育児など様々なシーンで「人生の再定義」は繰り返されアイデンティティが醸成されていく。

本作で描かれる一連の絹と麦の出会いと別れも、一度の「人生の再定義」による一つの出来事にしか過ぎない。この一件で彼らのアイデンティティが確立したわけではなく、この先も多分に分岐していく余白に溢れている(それを明示したシーンは描かれてはいないが、その後ふたりが付き合うパートナーの趣味も、絹と麦のそれまでのものとは大きく異なるように見える。それはふたりのアイデンティティが未だ不安定で、柔軟性を持った醸成段階の現れではないだろうか)。

(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

「ふたりはこれからどんな相手と恋愛し、どんな相手と結婚し、どんな趣味を持つのだろう?」

現代の積み上げ式アイデンティティ形成を象徴した本作だからこそ、恋愛という一側面を超えて、多くの鑑賞者の共感を呼び自分事化を促したのではないだろうか。そして、ふたりの人生の余白に想いを馳せながら、自らの人生に内省的になるきっかけにもなっている。

20代が終わりに近づき、そろそろ30代を迎える。そして、コロナで社会が一変した今「この社会で自分は何を選択すればよいのだろうか?」と、漠然とした自分のアイデンティティ形成に呑気な焦燥感を抱きつつ、映画館を後にした。

すると、隣の恋人が口を開いた。

「別れたいと思った?」
「いや、別に思わないけど」

また、少し、喧嘩した。


花束みたいな恋をした

2021年1月29日(金)より劇場公開中

『花束みたいな恋をした』

まばゆいほどの煌めきと、胸を締め付ける切なさに包まれた〈恋する月日のすべて〉を、唯一無二の言葉で紡ぐ忘れられない5年間。豪華俳優陣とスタッフが贈る、不滅のラブストーリー誕生!

作品詳細・レビューを見る

nony

【Editor】nony

ゆとり万歳な93年生まれ。 元ニュースサイト編集部・映画記事担当のち、現在は広報業務へ。

趣味は映画みたり、イラスト書いたり、ライティングしたり、クラウン(道化師)したり、コーポリアルマイム(フィジカルアート)したり、とやりたい放題。

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