究極にシンプルなのに心が揺さぶられるパフォーマンスとは?映画『アメリカン・ユートピア』

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│ジェーン・ドウの解剖

一生に一度の、至福の体験!

<あらすじ>
映画の原案となったのは、2018年に発表されたアルバム『アメリカン・ユートピア』。この作品のワールドツアー後、2019年秋にスタートしたブロードウェイのショーが大評判となった。2020年世界的コロナ禍のため再演を熱望されながら幻となった伝説のショーはグレーの揃いのスーツに裸足、配線をなくし、自由自在にミュージシャンが動き回る、極限までシンプルでワイルドな舞台構成。マーチングバンド形式による圧倒的な演奏とダンス・パフォーマンス 元トーキング・ヘッズのフロントマン、デイヴィッド・バーンと11人の仲間たちが、驚きのチームワークで混迷と分断の時代に悩む現代人を”ユートピア”へと誘う。この喜びと幸福に満ちたステージを、『ブラック・クランズマン』でオスカーを受賞し、常に問題作を作り続ける鬼才・スパイク・リーが完全映画化。80年代の傑作『ストップ・メイキング・センス』から36年。アメリカ全土を巻き込んだ熱狂が今、日本に緊急上陸!かつて誰も見たことのない、全く新しいライブ映画が誕生した。これは、更なる進化を続けるデイヴィッド・バーンからの、迷える今を生きる私たちの意識を揺さぶる物語であり、熱烈な人生賛歌である。

│人が人を動かすのに小細工はいらない

今回は初めてドキュメンタリー映画をご紹介いたします! 晴れやかなステージはもちろん、その舞台裏が少しだけ映されている『アメリカン・ユートピア』は2021年5月に上映されてから「2021年一番アツい映画!」という話題で持ちきりでした。満足度が高い作品としてとても評価をされているのですが、その魅力って一体なんなのでしょうか? 少しでもお伝えできるようにまとめてまいります!

ブロードウェイで行われていたこのショーでは、出演者がみんなお揃いのグレーのスーツに裸足という出立ち。この年齢も性別も、国籍もバラバラなメンバーたちが歌と踊りと楽器のみで魅せるというとてもシンプルなライブパフォーマンスです。通常、アーティストのライブというと曲に合わせた衣装やステージの装飾、エフェクトがかかったライブならではの音源というような派手なものを想像してしまいがちですが、彼らは真逆をいっています。衣装も変えず、ステージは1つのみで生バンド演奏です。「シンプル」と言いましたが、一歩間違えると「地味で単調」です。しかし、ここが最大の魅力だと感じているのですが、人はその身ひとつで歌ったり踊ったり目を惹く魅力があるのです。楽器を体の一部かのように一体化させ、会場全体を巻き込む迫力は画面越しにも伝わってきます。

私はこうした楽器がたくさんある場合、どうしてもパーカッションが気になってしまいます。バンドであればドラム、オーケストラであればティンパニーやシンバル、鼓笛隊なんて最高です。今作のパフォーマンスとも似ているマーチングバンドもとっても大好きなのですが、今回も例に漏れずパーカッションチームに釘付けでした。
もちろんダンサーも素晴らしいのですが、パーカッションメンバーの足捌きが見事です。生音で演奏しているためもちろん楽器を操りながら、ダンサーたちと同じ足の動きをしています。そのため全体のメンバーの動きに統一感が生まれているのです。簡単にやっているようで、リズムを刻みながら体も正確にステップを踏むというのはなかなかできることではありません。
そしてメンバーみんな、顔が踊っているのです。よくダンスをしている人でも、体は踊っているのに顔はにっこり笑って固定されているような人がいます。これとは違い、このパフォーマンスではパーカッションメンバーでさえ全身で踊っているのです。
楽器も歌も踊りも融合し、舞台上のメンバーだけではなく観客も踊って歌って溶け合い会場全部が動かされるようなそんな魅力があります。

│かっこいい曲と監督

作品中、数々の曲が詰め込まれておりますが、その中から特に印象に残った曲をピックアップしてご紹介いたします。

SLIPPERY PEOPLE
開始から30分ほど経ったくらいで始まるこの曲は、今までのように普通に歌っているかと思いきや、間奏を挟んだ後に突如「ピーピーピー」しかメインボーカルであるディヴィット・バーンが歌わなくなります。そしてまた、普通に何事もなかったかのように歌い出すというクセが強い一曲です。
この曲で感じるのは歌だけでなく照明技術の凄まじさ。パフォーマンスに合わせた明滅が曲の勢いをより加速させています。

TOE JAM
それまでとは一転して、横一列にメンバーが並びメインで演奏をしている人が1人ずつ前に出てくるというスタイル。この曲ではパーカッションの人が文字通り踊っていました(前述した顔が、とかではなく本当に踊っています)。首を回しながら小太鼓を叩いたり、ギロをかき鳴らしながらステップを踏んだり、それまでギターを弾いていた人が…あれ…踊ってる? というミックス具合。この集団は全員がパフォーマーなのだと再認識させられる曲です。

スーツをかっちり着ながら、歌って踊って汗ひとつでず息も上がらずたんたんと話すディヴィット・バーンとそのメンバーたち。無駄なものが一切ない舞台、無駄な加工もない、着飾ってもいない彼らはその身ひとつだけで人の心を動しています。

作品の最後はこんな一言で締め括られます。

「Utopia starts with U(you)」
ユートピアとは現実の社会に不満をもつ人が夢想する理想的な楽土、という定義があるそうです。この映画がつくられた時期のアメリカは政治的に不安定な状態で、選挙に参加することの大切さを改めて人々が感じていました。そんな想いが込められた今作に興味のある方はぜひご覧ください!
合わせてこの作品でデイヴィッド・バーンの魅力に魅せられた方は他の作品もありますので、ぜひTSUTAYAでお探しください!


アメリカン・ユートピア

製作年:2020年
監督:スパイク・リー
出演者:デヴィッド・バーン ほか

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【Editor】septmersfilms

三度の飯よりホラー好き。ホラーがないと夏が始まらないと思っている。たまにおしゃれ映画・アニメーションも嗜むが、基本的にゾンビ映画をみることで心を癒している。Twitterでは映画以外にも本業のマーケティング関連記事もつぶやきます! ぜひチェックしてください!

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