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マイケル・ジャクソンの頂を目指す、ベック史上初のポップ・レコード?『カラーズ』は今の時代におけるあらゆる分断を乗り越え、すべての人々に語りかける【インタビュー】

ベック

誤解を恐れずに言えば、通算13枚目となるニューアルバム『カラーズ』は、ベック史上初の“ポップ・レコード”である。テイラー・スウィフトエド・シーランの横に並べてもおかしくない、どこまでもカラフルで華やかな作品。そんな乱暴な物言いさえ可能だろう。

ただ、ベックの出自を知る人のなかには、このようなアルバムが届いたことに驚きを隠せない人もいるかもしれない。もともと彼は、90年代のメインストリームに対する対立項であったオルタナティヴという価値観を象徴する存在。これまでのキャリアではフォーク、ヒップホップ、ファンク、サイケデリックロック、あるいはそのすべてをミックスしたものなど、多種多様な音楽性を打ち出してきたが、基本的には「90年代オルタナティヴの寵児」というパブリックイメージの延長線上で捉えられてきた。しかし、そのデビューから20年以上の間に、世界は大きく移り変わっている。特にここ数年の変動は一際ダイナミックだったと言えるだろう。この『カラーズ』は、そうした時代の変化をしっかりと見据えたうえで、稀代のヴィジョナリーであるベックが世に問うてみせた“新しい挑戦”である。

「僕の若い頃っていうのは、野心的であることが受け入れられない時代だった」。90年代からの変化について、ベックはこのように説明を試みる。「だから、若い頃、僕が何か思いついても、それをそのままやるのは許されなくて、ちょっとトーンダウンしなきゃいけない気にさせられた。でも、今の僕はもうそんなのどうでもいい心境になったんだ。多分、世の中がもうちょっと緩くなったっていうのもあると思う。例えば、『俺はレッド・ツェッペリンが好きだ』とか、『俺はマドンナが好きだ』って言っても許されるようになったし、そういうのが好きな人がアーケイド・ファイアを好きでもかまわないってことになった。つまり、『何がよくて、何がダメなのか?』っていうルールがなくなったんだよ。そこで『自分はどういう音楽を作りたいんだろう?』ってずっと考えてた」。

インターネットの浸透に伴いあらゆる音楽へのアクセスが容易になった現在、ジャンルにとらわれず、様々な音楽を楽しむというライフスタイルは一般的なものとなった。それは、ジャンルや時代や国境を越えた無数の音楽を取り入れ、すべてを並列に並べてみせたベックの大傑作『オディレイ』(1996年)が先駆けていた価値観でもある。そして、そういった何でもありの状況が一層進み、メインストリームとオルタナティヴ/インディという対立軸も完全に無効となったのが現在の状況。

「何がよくて、何がダメなのか?」のルールはなくなり、すべては聴き手のテイストに任せられることになった。そこで起こったのが、ひとつにはオルタナティヴ/インディの衰退である。オルタナティヴは反メインストリームという足場を失い、その大半は単にニッチな音楽が好きな趣味のサークルに堕した。2015年にはベックの前作『モーニング・フェイズ』がグラミー賞の主要部門のひとつ、最優秀アルバムを受賞するという快挙を成し遂げたが、それがオルタナティヴ/インディの最後のピークだった―そういう見方も可能だろう。そして、もうひとつ起こったのが、共通のルールがなくなった状況下における、異なるテイストのリスナー同士の衝突と分断である。つまり今の時代は、誰もがあらゆる音楽を分け隔てなく聴けると同時に、テイストによってリスナーが細かく分断されるという二層構造が生まれているのだ。

「僕が思うのは、ここ10年くらいでどんどん曲が小さくなっていっちゃったってこと。ある意味、人間ってそういうもので、曲を作る時にはただ周りにいる人たちのために作っていたりするんだよね」とベックは新作のアイデアについて話しはじめる。「でも例えば、いろんなミュージシャンがプレイするイベントとかに出演するだろ? そこにはジャック・ホワイトからイーグルスニール・ヤングまであらゆるアーティストたちがいる。で、そこにいきなりスティーヴィー・ワンダーみたいな人が出てくると、もう全部ガラッと変わるのがわかるんだ。その理由は明確でさ。つまり、彼がすべての人たちに向けて歌ってるから。だから、今回の僕はそういう音楽にインスパイアされたってことなんだと思う。ビートルズデヴィッド・ボウイがやるような音楽をやろうと思ったんだ」

オルタナティヴ/インディが衰退すると同時に、聴き手の分断化も進行するなかで、ベックはある特定の層ではなく、すべての人たちに向けて歌うことに決めた。ただ耳当たりが良い音楽という意味ではなく、あらゆる人に語りかける大衆音楽という意味で“ポップという言葉を使うなら、まさにベックがこの『カラーズ』で目指したのは、ビートルズデヴィッド・ボウイスティーヴィー・ワンダーの伝統に連なるような“ポップ・レコード”なのである。

「僕としては特に具体的なものは目指してなかった。僕はただひたすら良い曲を書こうとしてただけだと思う」とベックが語る通り、このアルバムの音楽性を一言で語るのは難しい。アコースティックギターのカッティングを大胆にエディットしたイントロが印象的な「Dreams」は、シングアロング系のコーラスが力強く響き渡るベック流のアリーナロック。「Wow」は彼のヒップホップ・サイドがアルバムでもっとも色濃く出た曲で、トラップと呼ばれる旬のヒップホップ・ビートに近いノリも感じられるだろう。「Up All Night」はどこかジャスティン・ティンバーレイクの「キャント・ストップ・ザ・フィーリング!」を思わせる爽快なポップチューンだし、「I'm So Free」では90年代風パワーコードのギターリフが豪快に暴れまわる。

そしてタイトルトラックの「Colors」は、ベックが言うには「ビートルズが『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を作ってる時に、いきなりマイケル・ジャクソンクインシー・ジョーンズが入ってきた」ような、80年代的サイケデリックポップだ。このように、アルバムの10曲は見事に全てがバラバラ。曲ごとに異なる美しいカラーに彩られた、文字通りの意味で多彩な作品である。

しかも、どの曲も音が緻密に細かく重ねられていることで、華やかでカラフルな印象を放っている。アルバムを手にした人は、目を疑うほど膨大な数の楽器が並んだクレジットを確認してほしい。今ではアデルなども手掛ける超大物となった盟友、グレッグ・カースティンを共同プロデューサーに迎え、本作が徹底的に作り込まれたことがわかるはずだ。

「前は曲を作っていて、『この作りかけの感じがクールじゃん』ってなることがあった。でも、今はアイデアがあったら、ちゃんと最後まで仕上げて、できるだけベストなものにしようとしてる。すごく野心的になるっていうのが僕がずっとやりたかったことなんだ。だって、マイケル・ジャクソンの『スリラー』とかはめちゃくちゃ野心的で、ものすごく才能に溢れた人たちが、パワーの頂点で作ったレコードだからね」

最後にもうひとつ付け加えなくてはならない。分断を乗り越え、すべての人に語りかける作品を作るということ――偉大なポップ音楽の先人たちを念頭に置き、ベックが掲げた大きな目標は、音楽シーンに限った話ではなく、今の社会状況においても重要な意義を持つ。改めて説明するまでもなく、異なる思想信条、人種、国家などの間での衝突と分断は、今、世界中で巻き起こっている。

「僕らは今、ものすごく不安定な時代に入っていこうとしてるし、特にアメリカには大きな意見の相違がある。いろんな対立や争いがあるんだ。ただ、このレコードのフィーリングって『僕らみんなで向かってるんだ』みたいな感じだから、僕としてはそれが伝わるといいんだけど。本当にパワフルな音楽って、あらゆる人を招き入れる音楽だと思うんだ。ビートルズスティーヴィー・ワンダーマイケル・ジャクソンもそうかもしれない。で、今、僕らはそういう音楽を必要としてると思うんだよね」

この『カラーズ』は、分断が進む音楽シーン、そして大きな困難に直面する今の世界に対する、ベックからのひとつの回答だ。果たしてこれが変化の触媒となり得るのか? その答えは本作を聴いたリスナー一人一人のなかにある。(取材・文:小林祥晴)

ベック リリース情報

カラーズ

NEW ALBUM
2017年10月11日発売

HSE-6963 2,490円(税抜)

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アーティスト情報

BECK

生年月日1970年7月8日(50歳)
星座かに座
出生地米・カリフォルニア・ロサンジェルス

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