『愛のむきだし【最長版 THE TV-SHOW】』通信vol.3―サイコだけど切ない!安藤サクラの“ギリギリな”芝居に痺れる

(C)「愛のむきだし」フィルムパートナーズ

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園子温監督がメガホンを取り、『第59回ベルリン国際映画祭』で国際批評家連盟賞とカリガリ賞をW受賞した映画『愛のむきだし』。信仰や罪といったテーマを、超個性的な登場人物が抱えるむきだしの愛とともに描き出した本作が、未収録の映像や再構築された音楽などを追加して、全10話のTVドラマシリーズ『愛のむきだし【最長版 THE TV-SHOW】』として生まれ変わった。8月23日にDVDがTSUTAYA先行でレンタル開始(9月27日Blu-ray発売)となった本作の魅力を全4回で紹介する連載の第3回は、物語における悪役として異彩を放つコイケ役の安藤サクラに焦点を当てる。

クリスチャンなのに盗撮魔となった男子高校生・ユウ(西島隆弘)が、妻の死を機に神父となった父・テツ(渡部篤郎)、テツの教会に通っていたカオリ(渡辺真起子)、男嫌いでカオリとともに暮らしている女子高校生・ヨーコ(満島ひかり)、新興宗教“ゼロ教会”の信者・コイケ(安藤)らと織りなす人間模様を描いた本作。安藤が演じたコイケは、主人公のユウとヒロインのヨーコを出会わせるきっかけを作るとともに、彼らの間を引き裂く役割を持つ。つまり、物語における悪役だ。

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ユウやヨーコもそれぞれ特殊なバックグラウンドを持つキャラクターだが、コイケは彼らと比較しても斜め上な存在である。彼女はクリスチャンの父親(板尾創路)によって肉体的・精神的に凌辱されていた過去を持ち、その歪んだ成長過程を歩んだ結果として、同級生を惨殺したり、自傷行為に走るなど、サイコパスとなってしまった哀れな少女なのだ。母の不在・父子関係の機能不全、父による凌辱は、それぞれユウやヨーコと部分的に重なるが、そうした経験を通じてコイケが心の中に抱えた闇は、ユウやヨーコのそれよりもずっと深い。

安藤は、その深く底が知れない闇を抱えるコイケの姿を、絡みついて離れないような印象を与える怪しい目遣いや、感情の激しい乱高下、ふわふわとしていて実体がないように思える佇まいなどを組み込みながら見事に構築している。コイケのようなタイプのキャラクターは、個性が強いあまり、一歩間違うと演技が上滑りして“寒さ”を感じさせてしまいかねないリスクを伴うが、安藤の演技は園監督のキャラづけと親和しており、居心地の悪い感覚を与えることがない。

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特筆すべきは、コイケが学校の廊下を血まみれになりながら闊歩・絶叫しつつ、怯える同級生に向かって刃物を振り回すシーン。ここで安藤が見せる「ギリギリ」な姿は実に素晴らしい。サイコで何をしでかすか分からない猟奇的な佇まいは、一度見たら忘れられないほど強烈だ。また、父の「アレ」を折ってから切り落とすシーンで魅せる恍惚とした表情には、否でも応でも引き込まれるダークな魅力がある。いわゆる狂気性を滑稽にならないよう表現することは至難の業だが、安藤はこれを見事に達成しており、後に日本屈指の演技派として評価される(第39回日本アカデミー賞にて『百円の恋』で最優秀主演女優賞を受賞)大女優としての一端を垣間見せている。

こうした猟奇的行動や、ユウやヨーコに対する精神的侵略は、いわば“攻めの芝居”だが、安藤はこれらとは対照的な“受けの芝居”でも魅せる。筆者が拍手を送りたいのは、父によって凌辱されるシーンでのやられっぷりだ。攻めている板尾の何とも言えない雰囲気も印象的だが、これを受ける安藤の潔いやられっぷりが最高なのである。水をぶっかけられたり投げ飛ばされたり、大声で「自分の体つきのいやらしさ」を懺悔したりなど、このシーンは非常に忙しい内容となっているが、当時まだ無名の若手女優であった安藤はこのシーンに全力投球し、序盤において観客を物語に引き込む見どころの一つとして成立させている。

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悪役として物語を盛り上げ続けるコイケだが、クライマックスにかけては彼女も主人公の一人であったことが示される。その散り際で、安藤が静かに、それでいて熱く演じきるコイケの散り様は、本作のハイライトの一つだ。それまで感じさせたことがなかった、言いようのない孤独や、ホロリと来る切なさを感じさせる表情は、未だに忘れ難いものがある。不思議なことに、この作品では主たる映画賞で何かしらの賞を受賞することはなかったが、本作の驚天動地な物語は、悪役であり主人公でもあるコイケの姿を、安藤が抜群の演技力で構築したからこそ、ではないだろうか。【最長版 THE TV-SHOW】の発売に伴い、多くの人が、改めて安藤の名芝居を堪能してくれれば幸いである。

(文:岸豊)

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>『愛のむきだし【最長版 THE TV-SHOW】』通信vol.4―論理性はなく強引なのに、なぜか感動してしまう不思議な物語としての『愛のむきだし』。


TVドラマ『愛のむきだし 最長版 THE TV-SHOW』
2017年8月23日(水)TSUTAYA先行レンタル開始
2017年9月27日(水)Blu-ray発売開始

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生年月日1986年9月30日(32歳)
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